地域医療・社会活動について
厚生労働省指定臨床研修施設の概要
健康志向の高まりと共に、地域コミュニティにおける歯科医院への期待は多様化しています。一方で、人口減少と少子高齢化による人材不足の問題も深刻化しています。この状況の中で、スタッフが安心して働き続けることができる環境を提供することはとても重要なことと考えています。当院では、全てのスタッフがキャリアアップできる環境整備に開業当初から取り組んできました。これにより、優秀な高い技術力を持つスタッフが増え、地域医療に貢献することができると考えています。
しかし、福利厚生や職場環境の改善は、経営的なバランスも考慮する必要があります。また、家庭と仕事の両立を目指すスタッフにとって、理想だけではない実践的な支援が必要です。これを実現するためには、医院全体で協力し、共有する文化の構築が必要です。
そこで当院では、「ひまわり村」という医院文化を育んでいます。これは、福利厚生に留まらず、職場での社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の構築に重点を置いています。当院での具体的な取り組みについては、以下で詳しく紹介します。
当院は、日本歯科医学会が提唱する、
地域支援型多機能歯科診療所
(1.5次歯科診療所)のモデル医院
として紹介されています。
地域支援型多機能歯科診療所(1.5次歯科診療所)とは、1次歯科医療機関と2次歯科医療機関との間に位置づけられ、より専門的な治療ができる体制や、複数の歯科医師が従事している歯科診療所を想定したものです。
女性スタッフの
働きやすさ支援と取り組み
当院では、歯科医院に勤務する女性のライフステージを6段階と考え、それに合わせてサポート体制を整えています。ここでは特に「2~4」ステージにある妊娠~出産~育児中の女性スタッフに対する取り組みについてご紹介します。
ママスタッフ・ステージ
まず、妊娠~出産~育児中の女性スタッフの働きやすさのために、
といった福利厚生制度や仕組みを設定しています。出産育児と仕事の両立ができない主な理由に、育児休業がとれない、子どもの病気等でたびたび休まざるを得ない、保育園等の開所時間と勤務時間があわない、保育園等に子どもを預けられない、などがあります(日本労働研究機構調べ)。実際に活用できる仕組みと、職場の風土づくりが必須であることに対して、上記の福利厚生制度のほかに次の取組みを行ってきました。
現在、当院には保育士が勤務しています。当初小児のカリエス(むし歯)コントロールをするためには、保護者の口腔内環境の改善や意識改革が必要であり、小さいお子様を連れての受診が少しでも楽になればという思いで保育士を雇用し、受診中の子どもをお預かりするサービスを始めました。その後、2010年(平成22年)からは、スタッフのための託児をスタートさせることにつながっていきます。現在の保育士の業務は、託児業務のみに限らず管理栄養士と一緒に地域住民へ健康づくり啓発セミナーや地域貢献活動などに積極的に展開しています。
院内託児は、患者様用とスタッフ用の2部屋を分けて設置しています。分ける理由は、託児の目的や託児の時間の違いによる安全管理と業務内容によるものです。患者様用託児は、あくまで治療時間の間に限る短時間保育であり、それに対してスタッフ用託児は勤務時間の間となるため、単に託児するだけでなく心豊かに育てる保育の提供や感染リスクを少なくすることを目的としています。スタッフ用託児の工夫点として、多様なプログラムを組んでいることと、あえて院内に設置していることにあります。職場に隣接することで、スタッフや子どもがお互い顔なじみになれます。例えば昼ごはんの時間なども他のスタッフと触れ合うことができ、母親スタッフ同士も子どもを通しての会話が増えます。女性の働きやすい企業文化を育む上で、当院で大事にしている風土づくりのひとつです。
管理栄養士は、「食」や「栄養」に関わる専門職として、普段は患者様の健康相談、栄養指導を業務としていますが、同時に院内託児の子どもに食育指導、その成長にともない「食習慣」「食べ方」など子どもに対する健康教育アプローチとしても貢献してくれています。歯科医院に管理栄養士が従事することの将来的な可能性は大きく、今後、地域住民の健康な生活のためのサポート役として活躍してくれることを期待しています。
スタッフが育児や介護の両立のできる、働きやすい環境整備に取り組むうえで、設備投資といったハード整備とともに、ソフトの整備も行っています。まだ十分ではない福利厚生制度や仕組みを補完するためにもスタッフからの意見を随時聞きとり、改善や工夫を現在も進めています。
男女共同参画社会と言われながらも現実的には家事における男女の負担比率はこの数十年目立った変化は見られず、女性の家庭における家事労働時間の割合は高いままです。育児中のスタッフからの意見で、「少しでも一人になれる時間が欲しい」との要望から、勤務時間外でも必要に応じて託児を実施し、リフレッシュタイムとしてもらうことをしています。
ご家族の転勤による転居や育児、介護など、スタッフ本人に勤務の意思はあったとしても、様々な事情でそれが難しくなる場合があります。優秀なスタッフの離職は当院にとっても患者様にとっても損失となることは言うまでもありません。そこで当院では職種によってはインターネット環境を使ったテレワークの導入を行っております。現在も東京在住のスタッフが勤務しております。
「Sunキッズ」
スタッフの小学生の子どもたちが夏休みや春休みなど、長期休暇になると勤務が難しくなります。そこで、保育スタッフを中心に「Sunキッズ」活動として企画運営し、子どもたちの長期休暇中の学習支援、食事提供、見守りなどによって、就業中のスタッフへの支援を行っています。母親の家事時間の短縮と、子どもにとっても普段と違う環境下で過ごす生活習慣づくりができています。
一般的に育児中の母親の離職原因にパートナー(夫)の理解不足、協力不足があります。育児や家事をこなしながらもいきいきと勤務する妻(ママスタッフ)が、実際どの様な環境でわが子が過ごしているかを、見て聴いて体験してもらう試みを定期的に行っています。これによって、家族が互いに協力し自己実現のできる家庭環境づくりをめざしています。
当医院には、経済産業省認可の人活プロジェクトにて養成された「メンタルコンサルタント」が勤務しています。全スタッフを対象に、日々2~3人ずつカウンセリングを実施し、勤務上での悩み、働きかた改革での課題を含めプライベートなことまで相談対応することで、心のケア対策を行っています。当然守秘義務に徹し、改善の必要な案件はすぐに対応するような仕組みづくりをとっています。
「まかない」の開催
従業員数が増加してくるとセクショナリズムがすすみ、普段の診療業務での関係性が他の場面でも作用し始めて職場の人間関係が硬直化する傾向にあります。そこで当院では、あえて直接診療業務に関係のない院内活動で風通しの良い関係性の医院文化を育くんでいます。「まかない」は、年に数回、スタッフ全員が参加するミーティングの時間を利用して、昼食を皆で料理し、みんなで食べるという活動です。職種の枠を外したチーム編成をし、普段話をする時間の少ない他の職種のスタッフ同士が協力しながら昼食の献立、材料調達、調理など役割分担して料理することで、勤務時間とは違う豊かな関係性ができ、お互いを尊重する心が育まれています。
相互理解と助け合いの精神
院内託児所などハード整備や十分な福利厚生制度を作っても、スタッフ相互に相手を思いやる気持ちが育まれなければ共生はできません。例えば、院内託児を利用しているスタッフが、子どもの運動会参加で休暇を取りたいと言ったときに他のスタッフがどういう気持ちになるだろうか?日頃からスタッフ同士、子どもとの顔の見える関係や交流があれば、その答えは違ってくるのではと思います。休暇の交代や、不在時の業務負担は正直うれしいものではありませんが、笑顔で「○〇ちゃん、運動会頑張ってね!」という会話が自然にできる風土作りに取り組んできました。
お互い様と言える関係性を医院の中で育むには、医院を労働に対して賃金を受け取る「場所」から「共存」する「村」を皆で作るという価値観を共有し、理解することが重要です。「村」ならば、院内に託児所があって、そこに他の家の子どもたちがいても不思議ではありません。「村」という広い意味での「家族」だからこそ、助け合う気持ちが自然と生まれてくるものだと考えています。そして医院が「村」であれば地域は「となり村」となり、地域貢献や地域コミュニティもまた違った見方ができるのではないでしょうか。こうして「ひまわり歯科」で育む医院文化は「ひまわり村」であり、言いかえると、ソーシャルキャピタルの構築です。いわば、当医院における女性が働きやすい環境とは、スタッフの生活や個性、能力、家族、幸福観を含め、全てを受け入れる職場環境整備ととらえています。
まだまだ課題は山積です。地域からの期待に応えるための重層的な医療ケアの提供にこたえるだけでなく、ワークライフバランス、働きかた改革の実践とあわせて、独身生活やさらなるキャリアアップを目指すなど、今後ますます多様なライフスタイルを選択するスタッフへのダイバーシティ推進や業務負担の軽減、生産性向上も重要だと認識しています。